イギリス発、十人十色の働き方
ボッティング大田 朋子(Tomoko Botting-Ota)
本コラムでは、働く女性にインタビューしてお仕事のこと、ライフワークバランスのとりかた、リラックス法、時短の工夫といったお話をうかがいます。
第9回目はベルギーのご出身で現在イギリス在住、名門パブリックスクールで教鞭をとられているエミリー・フレミンクスさんに登場して頂きます。人格形成期の子どもたちを指導する教師ならではの醍醐味や、週1回夜に“Me-time” (私だけの時間)を設けリフレッシュされていること、仕事や子育てが多用にも関わらず年間100冊読書を実践されているお話などがとても印象的でした。
・英国の伝統あるパブリックスクール(私立学校)で先生をされているんですよね。イギリスのパブリックスクールはエリートを養成することで知られています。そちらでのお仕事のことを教えて下さい。
イギリスのパブリックスクール(私立の学校)のシステムでは8歳から13歳までの教育期間は、シニアスクールへの準備“プレ”教育と位置付けられ「プレップ・スクール」と呼ばれます。わたしはそのプレップ・スクールでモダンランゲージを教えています。
今年はイヤー6からイヤー8の子どもたち(10歳から13歳にあたる)にラテン語を教え、イヤー8(13歳)の学業優秀者からなるスカラー向けクラスでは古代ギリシャ語を、3歳から7歳までのプレ・プレップスクールの子どもたちにはフランス語を教えています。
教えるというのは本当に素晴らしい仕事で、わたしの天職です。子どもたちが学び成長していく過程に寄り添って、見守り、必要に応じて導くのが教師としての私の役目、充実感や喜びは尋常ではありません。人格が形成されている真っただ中にいる子どもたちと密接に関わることができるのは教師の特権だと思います。自分が持つ知識や経験を伝えていくことはこの上ない喜びですし、子どもたちがそれを自分のものとして享受している姿を見るのは本当に嬉しいです。誰かの役にたっているという感覚ってはまってしまいますよね。
・先生をしていて大変なことは何ですか?
教師をしていると絶えず自分の多くを捧げることを意味しますから当然疲労を伴います。本当にぐったりとしてしまうときもあります。それに子どもたちとの別れはつきもので、これは教師をしていると避けられないさみしさです。教師が自分の任務を全うするということは子どもたちが次の挑戦への準備ができること、そしてそれは生徒たちが私たちを必要としなくなり離れていくことを意味します。子どもは成長しさらなる大きな舞台に進んでいくのですから。喜ばしいことだし誇りに思いながらも別れるときはやはりさみしいです。それでも私が伝えたことが教え子たちの心の中に残っていると信じています。一度でも教えた子たちは一生わたしの教え子ですし、必要であればいつだって彼らの力になりたい、そんな気持ちでいます。教え子たちがそのことを知ることはないでしょうが……。
時間に制約があるのもやりがいであると同時に難しい点です。 学校からの帰り道、毎日今日できなかったことを振り返って明日の授業の進め方を決めていますが、時間は限りがあるのにやりたいことややるべきことは尽きない。どんな授業でも改善される余地がありますし、工夫のための微調整はキリがないです。教師の仕事は終わりのない挑戦、子育てと同じです!
・話は前後しますがベルギーのご出身なんですよね。何故英国にお住まいなのですか?
9歳のときにオックスフォード大学を見て「ここで勉強したい!」と思い、すべてはそこから始まりました。念願通りオックスフォード大学(ワダム・カレッジ)に進学して最初の2年間クラッシック(西洋古典学)を学び、その後古典考古学と古代史を専攻しました。卒業後教師になってから子どもが生まれるまではロンドンの学校で教師をしていましたが、同じくパブリックスクールで音楽の先生をしているイギリス人の夫の赴任でカンタベリー郊外に引っ越してきて今に至ります。
もうすぐ7歳になる娘がいるのですが、娘が生まれてからしばらくの間はチャイルドマインダーとして働いていたんですよ。チャイルドマインダーは自分の子どもと一緒にいながら子どもが大好きな私が働き続けるのに最適な仕事でした。娘が3歳を過ぎて就学が近づいた時に丁度夫が働くパブリックスクールでラテン語とフランス語ができる教師の募集があって教師の仕事に復帰しました。
・エミリーさんは英語をイギリスのネイティブのように話されますが、何か国語話されるのですか?
フランドル語とフランス語が母国語です。おっしゃる通り英語もイギリス人のように話すので、よく出身はベルギーだけどイギリスで育ったと勘違いされます。幸運なことに電話で話をしていてもイギリス人と思われるので英語も母国語のようになってきました。夢も英語で見ますしね。ドイツ語とイタリア語も話します。でも最近は使う機会がなくて少し錆びてきているかも!
・毎日の家事と育児、仕事との両立の工夫を教えて下さい。
買い物はすべてオンラインで行い、配達してもらいます。オンラインでまとめて買い物をするときに大枠の献立をたててしまいます。それに「ウィークリーカレンダー」を使って1週間の献立をたてるようになってから毎日の献立で頭を悩ますことがなくなりました。うちは小2の娘の子ども食と夫婦の食事を別で作るのですが、毎日まいにち献立を決めるのにかなりの時間や意識を使っていることに気がついて……。
それと、子どもがよく食べる食事や私たちのお気に入りのメニューを書き挙げています。献立をリストアップしたのは我ながらよい結果をうんでいますね。献立に困ったらその「好きな食べ物メニューリスト」を見れば、「ああこれ最近作っていないなあ」とお気に入りメニューを思いだせます。来客用のメニューも前菜、メイン、デザート別にリストアップしていますが、この好きなメニューをリストアップしたメモがかなり役立っています。
あと、子どもが生まれてからは食事の準備をする回数を意識して減らしました。例えば、今晩はキーマカレーを作りましたが、明日はそれをラップに巻いてあさってはパスタのソースにするなどしてアレンジ、リメイクします。美味しいものを食べるのが好きなので家の食事を手作りすることにはこだわりたいですが、同時に料理をしていたら自由時間がなくなっていたということを避けたいので、本格的に料理するのは3日に1回くらいにしています。美味しいものは食べるけど仕事後の時間を圧迫しないバランスがわたしには大切です。夫が家事全般得意なことも、家事と育児、仕事の両立にとても助かっています。
・ご自身のリラックス法を教えてください。
自宅と子どもの学校(送り迎え)、そして職場まで毎日歩いて移動するので、日常的に体を動かしているとは思うのですが、体力と気力を上げるために週2回水泳に通っています。イギリスでは冬になると外に出るのが億劫になってどうしても体を動かす機会が減るのはよくないと思って数年前にジムに行き始めたのです。そこでの水泳が私には合っていました。とてもいい運動になっていますし気持ちがいいです。
それと週1回、水曜日の夜は“Me-time” (私だけの時間)と決めています。水曜の夜は夫も比較的早めに帰宅できるのでその夜は夫と娘は家で過ごし、わたしは一人で好きなことをします。友達を誘ってご飯を食べに行くときもあれば、陶芸教室に行って作品を作ったり、カフェで本を読んでから一人で好きな日本食を食べに行くときもあるし過ごし方はそれぞれですが、自分の好きなことをできる時間が毎週確保されているのは気持ちの安定に一役買っています。
それに自分には必要がないと感じる他人の意見は無視するように努めています。 例えばですが、自宅は私にとっては十分清潔だし整理されていますが、もっと高いレベルの清潔さを求める私の母にとってはそうではないので一言二言何かを言われるときがあるんです。でもわたしは自由な時間があったとして、その時間にさらに磨きがかけるための掃除をするよりも娘と一緒にクリエイティブな時間を過ごしたり、小説を読んでいたいのです。
他にもわたしの毎日の楽しみでなくてはならないのは、読書です。職場への行き来の間も本を読みながら歩いています。 本を読みながら歩いていると他の人によく話しかけられるんです。歩きながらでも本を読むなんて素晴らしいと声をかけてくれる人もいれば、危険からかと忠告してくる人もいます。 今年は100冊の小説を読むことが目標で、すでに82の小説を読み終わりました。本を通して違う世界に旅したり他の人生を生きることができ、読書はわたしには至福の時間です。本がないと失望しますし本を持たずに家を出ることはありません!
・今後の目標などありますか?
将来の夢は今のところぼんやりしています。今は私の人生のなかで一番集中していると感じています。今に満足しているというか、自分の好きなことをして満足感に溢れて毎日を過ごしているので。とはいえ、アフリカや日本などもっと行きたい場所がありますね。
ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota
ライター&プロジェクトプロデューサー
アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。
現在イギリス・カンタベリー在住。
メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。
アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。
⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/