北米でマルチリンガルの子育て、仕事、海外生活と日々奮闘中の筆者が感じた日本と海外の違いや気づきを綴るコラム。

第30回は「カナダのこわーい不動産事情」の話です。

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大家さんの一言からその悪夢は始まった。

「僕たち、君たちが住んでいる家に住みたいから、今年は契約更新をしなくてもいいかな?」

カナダでは、大家さんから「出て行ってくれ」と言われる契約不更新の問題が続出している。私もカナダ全土の情報は把握していないので、あくまでも個人的&周囲からの話になってしまうが、バンクーバーやトロントといったカナダ主要都市では、もう数十年間も前から不動産の価格が高揚し続けている。

 

この波はカナダ第二の都市でもあるモントリオールにも来ていて、地域にもよるが、地下鉄沿線の中心地には5,000千万以上から億を超えた家がゴロゴロと存在している。といってもモントリオールの人口や規模は、日本の地方都市並み。世帯収入の平均値はカナダのほかの州と比べても低めなので、それらを考慮するとこの価格帯は少し異様に感じる。

 

カナダの不動産事情として、日本と異なる大きな点は、築年数が経っているからといって価格が低くならないこと。築100年を超えても売値は上がり続けていて、リノベーションが施されていれば、さらにその価値は上がっていく。知り合いの話では、40年前に購入した物件であればおよそ9倍、15年前で2倍、たった3年前でも1.5倍で売れるそうだ。

 

今モントリオールの不動産は売り手市場で、売り物件が不足している。同じ物件がたった数週間の違いで200万円ほど上がったりもする。買い手はオファーを勝ち取るためのレースの過酷さに疲れ果て、もう決めてしまえ!と売値価格よりも、さらに100〜200万円ほど上乗せをしてやっと棲み家を見つけるという状況になっている。

 

さて、私たち。

これまで賃貸で、長く一つの家に住み続けてきたのだけど、このエリアが数年前からいわゆるトレンドの人気エリアとなった。そのため近年越してきた人たちは、私たちよりも2倍ほど高い家賃を払っている。大家としてはできるだけ短い期間住んでもらって、人の入れ替え時にどんどん家賃を上げていきたいという思惑があるのだ。

 

ただ、すでに賃貸している人を簡単に追い出すことはできない。その追い出す方法の一つとして、「大家が賃貸せずに、自分で住む」という方法がある。しかしその前提でテナントに出ていったもらったあとは、自分では住まず、しれっとリノベをし4万も5万も上乗せして、新しい賃貸として募集することが多々あり、それにより家賃が高揚していく、という問題が起こっているのだ。

 

この状況に、いよいよ私たちも追い込まれた。退去申請にNOということは、もちろんできるが、話し合いで決められない場合はその決断を指定の機関に委ねなければならない。もしそれで、「契約更新は無理です」となった場合には、100%従わなければならないし、仮に今期はOKでもまた来年同じプロセスを行なう必要がある。

 

非常にめんどくさい……!私たちも「いつかは購入を」と考えてはいたけど、売り物件も少なく、コロナ禍で新しい家を探すのも、訪問するのも、そして引越しするのも大変なこの時期に、退去通告を受けるとは。なんというか、もうしんどい。なんなら長年あたためていた日本移住をこれを機に実行したいとすら考えている。

 

とはいえ、ときは刻一刻と迫っているので、この状況にボーッとして家なき子になるわけにもいかず、「やらねばならぬ」と気持ちを奮い立てて行動をしなければならない。将来、あれはいいタイミングだったと思えるように、幸運を祈るばかりである。

 

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SASAKI

 

海外移住をきっかけに本格的に編集者・ライターになる。取材・インタビュー記事が得意。英仏話者。人々の生き方や働き方、子育て、教育に興味あり。現地企業では新たな挑戦としてマーケティング・カウンセラーも経験し、いつか海外と日本の架け橋となるようなサポートもしてみたいと考えている。