イギリスで子育て

ボッティング大田 朋子

 

第1回 教科書がないイギリスの小学校

 

子どもたちがイギリスの小学校に通い始めて一番始めに驚いたことは、教科書がないことでした。イギリスに引っ越しする前に住んでいたスペインの学校では、学年が始まるときに、学校が教科書や付属教材をまとめて購入して子どもたちに配っていました。義務教育中の教科書が税金で賄われる日本とは違い、保護者が教科書代を負担する違いはありましたが(しかも書物の値段が高いスペイン、教科書代の請求書を見てびっくり!)同じ学校の同学年の子どもたちはみんな同じ教材を使って勉強している点では日本と同じでした。

 

一方、イギリスの小学校では「教科書」というクラスで共通して使う一律の教材はありません。授業では子どものレベルに合わせて先生がプリントやワークシートを用意してくださり、それを使って学習します。それらのプリントを子どもが自分のノートに貼っていき、学年が終わるころにはその子ども独自の教科書(ノート?)が出来あがっているというスタイルです。

 

小1の算数テキストブック、授業で行ったワークシートやプリントを貼っていきます。

 

理科やRE(宗教教育)などはクラスみんなが一斉に同じプリントを使って学習するので、教科書の代わりにプリントを使うという感覚ですが、算数や国語(読みやスペリング)はクラスのなかで子どもの理解度に合わせてグループ分けされ、グループごとに理解度や進捗度に合わせたプリントとワークシートが用意されます。

 

例えば算数の授業でいうと、子どもの理解度によって6~10人のグループに分けられ、グループごとに課題内容が変わります。当然宿題も生徒によって違います。スペリングでもレベルごとにグループ分けされるので、ワークの内容は各自違いますし、毎週行われる小テストの内容も子どもによって変わってきます。

 

娘の学年では「国語」は3グループに分けられ、プリントはグループごとに変わります。同じテーマでもプリント左上の星の数で難易度が違います。

 

一律の教科書を使うことが当たり前の教育を受けてきたわたしには、このやり方には戸惑いもありますが、良い点は子どものレベルに合わせて学習を進めていけることです。理解度が高い子や頭の回転が速いタイプの子どもは次の課題にどんどん挑戦していけるし、苦手な科目の場合だと少人数のグループのなかで丁寧に指導をしてもらえる。このように子どもの理解に合わせて学習が進めていく考え方は、個を尊重するイギリスらしいなあとも思います。

 

それにイギリスでは日本のように教科書が政府から支給されるわけでないので、もし教科書という一律したものを導入したとしても、すべての保護者が学校指定の教科書を購入するとは想定できない現実もあります。子どもたちみんなに教材が行き届くという点では、学校が用意するプリントやシートを使うのが教育の機会均等という意味でよいのかなあとも思います。それに、教育カリキュラムが変わる度に教科書も変えないといけないといった手間と無駄な費用を防ぐことができますしね!

 

一方で、わかりやすい指標となる教科書がないので、子どもがその時に学んでいることをタイムリーにサポートしづらいとも感じています。これはプリント学習の弊害というよりは、教材やノートを毎日持って帰ってこないことに関係してくるのですが、毎日学校で学んだことを子どもがその日のうちに複数するルーティーンが作りにくいです。それに小さな年齢から、できる・できないでグループ分けをされるので、子どもたちに(特に理解度が低いグループにいる子どもに)心理的な弊害はないのかという点も気になります。理解度が違う子どもたちがあえて一緒に学ぶことでお互い学びや刺激もあるのでは……とも思うからです。

 

ともあれ郷に入れば郷に従え。教科書という見えやすい指針がないからこそ「学習」を広い視点でとらえることができると捉えて、わたしもできる範囲で日々のサポートに勤しんでいます。

 


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota 

ライター&プロジェクトプロデューサー 

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。 

現在イギリス・カンタベリー在住。 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。 

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。 

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/ 

 

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