一葉式(いちようしき)の生け花講師としてご活躍される 桃葉(ももは)さんに、生け花の魅力、一葉式とは、講師になられたきっかけ、いけばなインターナショナルなどについてお話を伺いました。

 

・生け花講師としてご活躍されていますが、もともと生け花を始められたきっかけは?

 

私の生け花人生に欠かせない人は祖母です。祖母は先々代の家元(2代目家元)に習っていたのですが、今日に至るまで70年以上にわたり生け花に携わっています。私が生まれた頃にはすでに一葉式の一級教授として花を教えていたので、わたしは生まれた時から生け花に触れている環境でした。とはいえ子どものときは生け花に見向きもしなかったんです。大人になってから周囲に「せっかくだから、習いに行ったら?」と声を掛けられたのがきっかけで始めました。

 

始めは基本ばかりで楽しみを感じなかったのですが、頭の中にあるイメージを形にしていけるようになったら面白さが出てきました。左右非対称なのにバランスがあるという生け方のコンセプトの深さに魅かれました。

 

花を見てこの花を生けたいと思ったときに、どの器にいけようか、どういう風にいけようか、と色々な楽しみが膨らみます。器を見てこの器に生けたいと思ったら次はこの器にあう花は?生け方は?などと考えていくのが面白くて……。

それを形にできたときの達成感が心地良いです。

 

そんな風に一葉式を深めていくうちに、一人で生み出す楽しみを他の人にも「広めたい」気持ちが芽生えてきて、生け花講師になりました。

 

・生け花には流派がたくさんあるんですよね?桃葉さんが継承されている「一葉式」のことを教えてください。

 

一葉式の特徴を一言でいうと、基本の形(基礎)を大事にした上で自由な生け方が多いことでしょうか。立花や生花といった決まりごとや型にとらわれない「自由花」と呼ばれる生け方です。もちろん古典的なことも大切にしていますがそこから進化させた芸術的な生け方が多いです。

 

流派には「派」がついていますが、一葉「式」は自分「式」に花を活けられるようにとあえて流派と定義していないんです。それには基本となるベースを習得した上で自分式の花を生けられるように習得していって下さい、基本の上にこそ広げていける花との世界を楽しまれて下さい、という一葉式の基本コンセプトがあります。

 

例えば生け花では剣山を使うのが一般的ですが、一葉式では剣山を使わない生け方も多くされています。剣山を使わない生け花を本格的にやりだしたのは一葉式です。

 

剣山を使っていないのでどこでどう花が止まっているのかわからない、ワイヤーで止めている訳ではないのにきちんと止まって、しかも花や葉が1番カッコイイ形でポーズを取ってくれている。これが出来るのは一葉式だけです。

 

 

以下の写真を見てください。

 

先日目黒雅叙園にて開催された展覧会で4代目家元が生けた作品です。

 

 

竹の間に鉄の器がフワッと浮き、その間に太く大きなツルが絡み、その間に枝物、花が絶妙なバランス感覚で生けてあります。部屋いっぱいに広がるカサブランカの香りも癒されましたし、一葉式らしい、家元らしい素晴らしい作品で感動いたしました。

 

こちらの家元が生けた大きな作品も剣山を使っていないんです。不安定に見えながらしっかりと安定した作品になっている、絶妙なバランスと完璧に計算された生け方があるからこそ成り立つもので、これは一葉式生け花ならではであり、一葉式生け花でしか習得できないものと思っています。ものすごく難しいですが、やりがいがあります。

 

他にも、一葉式では花器も食器を使ったり卵のパックを使ったり流木を使ったりと多種多様。既成概念にとらわれない芸術的な要素と絡めやすい生け花のスタイルだと思います。

一葉式では野菜やフルーツなんかも使いますよ。

 

・桃葉さんは国内に限らず国を超えて生け花を広めていく活動にも取り組まれていると聞きましたが……。

 

私の母はフィリピン出身で、母はいけばなインターナショナルのマニラ支部で活躍しています。日本の美を世界の人に広めたい思いは母の影響を受けています。

 

剣山といった小道具や床の間がある環境は日本以外では手に入りにくいですが、伝統的なやり方を超えた生け方が楽しめる一葉式のスタイルは、海外で生け花を楽しむのに合っています。

 

「いけばなインターナショナル」というのは、生け花の魅力を世界の紹介する目的で1956年に設立されたグローバル組織で、現在50か国以上に160の支部があるんです。外務省にも認定されている非営利の文化団体です。驚かれるんですが色々な流派の方が集まっていて、流派を超えて活動しています。様ざまな流派の方との「花を通じての交流」がわたしには楽しいです。

 

「いけばなインターナショナル」では生け花の魅力を世界中に伝えていますが、同時に海外ではフラワーアレンジメントの歴史が深い国々もありますよね。違う文化で育まれたその土地ならではの花を愛しむやり方を学びながら、生け花の魅力と融合させて、さらに生け花を進化させていけると楽しいなって思います。

 

・生け花をする良さを教えてください。

 

お花を活けている時間って、自分と向き合う時間になります。自分との対話というか。1~2時間そのことに集中しているので無我夢中になれる。生徒さんになかにも、思っていた以上にストレス発散になっているとおっしゃる方が多いです。もちろんお花を見て香って触れるので気持ちがリラックスできるのもあると思います。

あと、難しいものができたときの達成感も大きいですね。

 

生け花って、着物を着て床の間に座ってといった、とっつきにくいイメージを持たれている方が多いのですが、実際はすごくリラックスしてカジュアルに楽しんでいます。厳しいとかお金がかかる、敷居が高いと思われている方も多いのですが、全然そんなことないです。休憩のときにはみんなでお菓子を食べておしゃべりに花を咲かせますが、そういった交流が楽しいと続けられる方も多いです。もっと多くの人に「生け花はカジュアルに楽しめる」と知ってもらいたいです。

 

・今は生け花を習いに来られるのはどんな人が多いですか?

 

生け花を習いに来られるのは9割が女性ですね。30代でされる方ももちろんおられますが、40代以降から始まって60代以降の人が圧倒的です。

それは伝統文化の生け花に興味が沸くのが年代を重ねてからになるという傾向もありますし、みなさん毎日が忙しいので、時間やお金に余裕ができてから、となると60代以降になるのだと思うんです。お仕事とか子育てで忙しいと、花どころじゃないってなっちゃいますものね。

 

でも前述したとおり、ストレス発散になったり友達作りになったりと生け花がもたらす効果って忙しい世代とか若い人たちにこそ実感していただける気がします。だからこそ、2週間に一回とか一か月に一回でも、生け花をする機会を持っていただけたらなあと思います。

 

今は女性の生徒さんが圧倒的に多いとはいえ家元は男性も多いですし、男性にも是非習いに来てもらいたいです。

 

それに、生け花をしていると気がつくんですが、伝統的に花を学ぶだけじゃなくて、メイク、ガーデニング、料理の盛り付け、デザインなど総合的な色彩のセンスが磨かれるんです。花以外のことでセンスが磨かれるというか、他のことにも応用できます。

 

だからこそ、10代、20代の若い方にこそ生け花に触れていただきたいです。若い方の方が枠にとらわれない自由な発想ができるし、思いもよらないようなアイディアもたくさん出たりします。ファッションやメイクに興味があるのも若い方の方が多いですし。もちろんファッションやメイクが好きな男性も大歓迎です。

 

お子さんに生け花を習わせる親御さんもおられます。親子で習えば花を通して新しい会話が生まれますし、親子のコミュニケーションツールの一つにもなりお薦めです。

 

・今後の目標を聞かせて下さい。

 

生け花はもちろん、日本の伝統文化を世界に広めたいです。同時に世界の他の文化にも触れてその魅力を取り入れながらさらに生け花の美を深められたら素敵ですよね。

 

ご飯を入れる「おひつ」や「籠(かご)」など日本独特の伝統工芸とコラボも取り組みたいです。和のよいものを丁寧に、そしてカジュアルに(敷居を高くなく)取り入れることで美しくもなりかっこよくもなる生け花を見ていただける機会を増せられたら嬉しいです。

 

そして今後一番メインにしたいことは、海外や外国人の方に積極的に生け花を教えていくことです。私は海外にこそ生け花を活かす道があると考えています。最終的には私が海外に教えに行く、海外に住むことを考えていますが、今は日本に住んでおりますので、日本に来る外国人観光客の方に生け花を教えたいです。

 

たった一回のレッスンでも日本の伝統文化に触れる体験ができますし、もしかしたらその方の国に「いけばなインターナショナル」の支部があるかもしれません。体験レッスンの後に生け花をもっとやってみたいと思って下されば、支部に問い合わせたり、人数さえ集まれば私自身がその国に出張して教えることも可能です。(インタビュー・文 ボッティング大田 朋子)

 

 


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/