イギリス発、十人十色の働き方
ボッティング大田 朋子(Tomoko Botting-Ota)
本コラムでは、働く女性にインタビューしてお仕事のこと、ライフワークバランスのとりかた、リラックス法、時短の工夫といったお話をうかがいます。
第10回目はイギリスで理学療法士をされているジェーンさんに登場して頂きます。子どもの頃フィジオセラピーの先生に助けてもらった経験からご自身も理学療法士になり、出産を機に今は週3日勤務で働かれています。お子さんの学校が休みのたびに預け先を探すのが大変で、旦那さんとスケジュールを共有して前倒しに予定を決めるのが仕事と育児両立の鍵だとおっしゃっていました。
・理学療法士としてのお仕事のことを教えて下さい。
イギリスのNHS(国民健康保険)の病院でフィジオとして働いています。フィジオセラピーはケガや病気、障がい、要介護の状態などによって身体機能に障害が生じたり機能が低下したときにその状態を改善、回復するための治療です。イギリスでは国民健康保険でフィジオを利用できるケースも多いので一般的な治療法や予防法として確立しています。わたしは家から車で40分くらいの大きな病院で今は週3日のパートタイムで働いています。2ケ月に一回週末にも出勤します。
・理学療法士をしていて大変なことは何ですか?
私自身が子どものときに理学療法士の先生に助けてもらった経験から、自分も理学療法士を目指しました。なりたかった職業だし自分の人生を変えてくれた仕事だから仕事のことで大変だと思うことはないです。ただ、働くお母さんの多くはそうだと思いますが、子どもの学校行事に参加するために工面したり、夏休みなどの長期休暇に子どもをどこに預けるかといったスケジューリングは大変です。
・フルタイムから時短勤務にされたときの思いは……?
出産まではフルタイムで働いていました。同僚たちは出産してから子どもが小学生くらいの間は仕事を一度辞める人が多かったです。イギリスでは医療従事者が不足しているので一旦仕事を止めても比較的簡単に復職できる事情も関係しています。私も育児が大変な時期くらい仕事を一度辞める選択肢もあったのかもしれませんが、自分にとって理学療法士は誰かを助けられる仕事だし生きがいです、それを辞める理由が見つかりませんでした。それに子どもたちが育った後に自分に何も残っていないのはイヤだなあと……。自分らしくいるためにも仕事をしないことは考えませんでした。
とはいえ、病院でフルタイムで働くと週末勤務もあるし勤務時間のシフトも不定期になります。というわけで子どもが小さいうちは週3日勤務が丁度いいと思いました。子どもがもう少し大きくなったらまたフル勤務に戻ると思いますが、今はまだ先の話ですね。
・家事と育児、仕事との両立の工夫があれば、教えて下さい。
火、水、木曜日が仕事日なのですが、仕事がある日は朝子どもを学校に送っていったらそのまま病院へ出勤し帰宅も遅くなります。その代わりに月曜日と金曜日のオフの日に家の掃除や料理の作り置きをして、仕事がある日に楽にできる工夫はしています。週3日が仕事、2日オフというのは時間的な余裕を生むので、それに曜日によってオンとオフがはっきり分かれているので比較的両立しやすいです。
育児と仕事の両立がスムーズにいくためにわが家で取り入れている方法は、家族のスケジュールを夫とシェアしてビジュアライズすることです。オンラインカレンダーで家族のメンバーごとに色分けして予定を入れて見える化し、かなり前倒しして予定をオーガナイズするようにしています。例えば、土曜日に子どもの友達の誕生会があったとして、わたしの週末勤務に当たっている場合通常は夫が担当しますが、夫も週末出勤の日があるのでバッティングしていないかまず確認、夫も無理なら友達ママに尋ねる、それもだめなら義両親が来られるか確認して、といった感じです。夫婦ともに不定期ながら週末出勤があり夫は出張が入ることも多いのでスケジューリングの共有は必須。わたしも夫も都合がつかないときは、ママ仲間、義理両親、ベビーシッターと順番に頼れる手段を探ります(笑)。面倒くさいのですが、子育てと仕事の両立が気持ちよくできるために前倒しでスケジューリングをするようにしています。
・仕事と育児、家事の両立で何が一番大変ですか?どうやってやりくりされていますか?
イギリスの学校はターム(学期)の途中で「ハーフターム」という中休みが1週間から2週間あるのですが、そのハームタームの期間に子どもたちをどこに預けるかというのに毎回頭を悩ませますね。5、6週間ごとにお休みがあるので、今回のお休みが終わったら次の休みにどこに預けるかを探して……、と常に子どもの預け先を探している感じです。イギリスでは会社と学校のカレンダーが違いすぎるので、子どもの休みの度に預け先を探すのは働く親みんなが直面している大変さだと思います。わたしも「なんとかやっている」感じです。
そういったハーフタームの間は「キャンプ」と呼ばれるアクティビティーがあるのでそれを利用しています。キャンプにはサッカーやラグビー、体操などのスポーツ系アクティビティーから、工作や絵画をするアート系、プログラミングやコーディングまで様々なジャンルがあって朝9時から3時まで子どもを預けられます。早朝預かりや延長預かりもあるので助かっています。どのハーフタームにどこのキャンプに参加するかを決めたら、ママ友の間で同じキャンプに行く人がいないかを確認し、他のママたちと送り迎えを分担します。私の場合週2日のオフ日には他の子どもたちの送り迎えをすると名乗り出る代わりに、仕事がある日の送り迎えをお願いするパターンです。お互いさま、という感じで助け合っています。
気を付けていることは、こちらばかりがお願いしているようにならないように、でしょうか。例えば、今回のハーフタームでうちは1回しか送り迎えをしなかったけど、他のママに3回してもらった場合があれば、他の週末にその子を夕食やお泊りに招待したり、学期中にわたしが送り迎えを余分にしたりして公平であるようにしています。頻繁にあることだし長い付き合いなのでモノでのお礼を表すのではなくて、子どもたちも楽しめる形で助け合える関係を築くようにしています。
家事でいうと使える手段は使いまくっていますよ。イギリスで食洗機を使うは当たり前ですが、掃除もルンバ(ロボット掃除機)を使って自動で掃除。帰宅したら床がキレイって気持ちいいですよね。あと冬のイギリスって洗濯を外に干しても寒すぎて乾かないんです。前までは室内に干していましたが、それだと乾いたあとも干しっぱなしになっていて部屋も片付かないしストレスでした。今はタンブラー乾燥機を使って、乾く時間がわかる=畳みはじめられる時間が決められるようにしました。
・ご自身のリラックス法を教えてください。
どんな仕事でも当てはまることだと思いますが、病院で働くわたしたちにとって自分自身が健康でいることは絶対条件です。だから食事、運動、ストレス軽減を心がけています。エクササイズでいうと今はヨガとピラティスのクラスに参加しています。ヨガのクラスは日曜日の夜にあって子どもたちが寝てから出かけます。始めは日曜日の夜まで決まった予定があるのはイヤと思ったのですが、やり始めてみると、日曜の夜に凝り固まった体を修正できるので気持ちよく新しい週が始められます。ヨガとピラティスはそれぞれ週一でクラスに行き他の日は家でアプリを使ってしています。
それと3か月に一回くらいは仲良しの友達と週末旅行に行きます。学生時代の友達が今はバラバラの都市に住んでいるので、彼女たちとスペインやポルトガルといった近場で温かくで美味しいところに出かけます。たくさんおしゃべりするのが楽しいです。オフの日も友達とランチに行ったり子どもを迎えに行く前にカフェで会ったりと、特に仕事の同僚や学校のママ友以外の人とは意識的に時間を作るようにしていますね。今の時期って意識してしないと狭いサークルにおさまってしまいがちなので、色々な人と社会的につながっていることの大切さは意識して行動するようにしています。
ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota
ライター&プロジェクトプロデューサー
アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。
現在イギリス・カンタベリー在住。
メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。
アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。
⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/
ブログ https://tomokoota.wordpress.com/