イギリス発、十人十色の働き方

 

ボッティング大田 朋子(Tomoko Botting-Ota)

 

本コラムでは、働く女性にインタビューしてお仕事のこと、ライフワークバランスのとりかた、リラックス法、時短の工夫といったお話をうかがいます。

 

第13回目は諸星奈穂さんに登場して頂きます。20代で介護の会社を設立されたことや、12年続けた会社を売却される決断、一人娘を育てるシングルマザーとしての思いなどについて伺いました。

 

・介護の仕事で会社を設立したことを聞かせて下さい。

 

今までの経緯を簡潔に説明すると、20代の初めにアメリカに住んでいましたが病気になって帰国、日本に戻ってから5~6年間は不動産会社に勤務して賃貸や売買を扱う仕事をしていました。不動産業界では学んだことも沢山ありましたが男女差別も厳しくて悔しい思いもしました。無理をしたことがたたって入院したことで働き方を見直すきっかけになり、これからはもっと人と接して「ありがとう」が身近に感じられる仕事につきたいと思いました。保育か介護かで迷いましたが、資格取得に数年かかる保育と違い、介護は数か月で資格取得が可能でしたので、まずはヘルパーの講習に行くことから始めてみました。

 

それからヘルパーとして働きだし、お年寄りの方々から多くの学びを得つつ、雇われヘルパーでしたので仕方ないとは思いながらも、理不尽だけど変えられない状況に毎日怒ってばかりでした。そのうち、毎日のように怒っている自分が嫌になってしまい「自分で納得のいくようにやれば怒らないで済む」と、なんとも短絡的でしたが、介護の会社を設立しました。いくつかの会社を経営する父の背中を見て育ってきたので、起業をするのはわたしには自然な流れだったのかもしれません。

 

介護の仕事では、訪問介護や居宅介護支援など専門性のあるサービスを提供する中で、「おもわず笑顔になる介護」をモットーにサービスを行いました。高齢化が進む現在、介護サービスは地域に住むご家族にも密着した存在ですし、誰もが安心して住める豊かな社会を築く礎になりたいと思いました。介護の会社は立ち上げてからM&Aで買い取ってもらうまで12年弱続けました。

 

・上手くいっていた会社を売った理由は?

 

起業した会社を手放したことに対しては多くの人から理由を聞かれたのですが、一つには健康上の理由があります。命に別状のない病気ではありますが、この20年間は年に一度は入院や手術をしていたので、健康に不安がありました。

 

そして、会社をしているとあまりにも忙しすぎて娘との時間が望むほど取れなかったことが一番の理由でした。会社の代表取締役を退任したのは2015年のことでしたが、娘が小学生になるとますます一緒に遊ぶ時間がなくなるのでは?と気がついて、娘が年中の間に会社を売却し、保育園の最後の一年は、園のイベントなどには参加しながらも、娘との時間を思う存分楽しみたいと思いそうしました。

 

会社を売却してからの1年半ほどの間、私は仕事を持たずに娘と一緒に旅(フィリピンに親子留学をしたり、ハワイ島の火山や星空を見に行ったり、NYでブロードウェイミュージカルを鑑賞したりetc)をして、母子での時間をたっぷり満喫しました。共有した時間はとても貴重で有意義でしたし、体調の調整もできました。

 

それから現在に至るまでは、娘との時間と自分の健康を第一にして不動産関係の仕事を中心に、起業支援の仕事などもしています。必要されるところで、自分にとって必要な分だけ働かせていただけることができていて有難い限りです。

 

・シングルマザーへの偏見を変えたい

 

娘は12月生まれで翌年の4月に保育園に入れるまで、娘を連れて出勤し授乳しながら仕事をしていました。介護の職場でスタッフの方々も人の面倒を見ることに慣れた方たちだったので、みんな娘の面倒をみてくれました。夜にもお仕事が入った時は、ベビーシッターさんを雇い、とにかく娘との生活がまわるように、また掃除などのお手伝いさんにも来てもらいながら、そして近所のパパ友やママ友にも沢山助けてもらいました。わたしの両親ももちろん娘の成長に関わってくれて、協力してくれる人に囲まれたおかげで、娘は色々な人に育ててもらいました。シングルマザーだから娘を一人で育てていたかというとそうではなく、決して一人ではない育児環境でした。

 

わたしのように未婚の母をしていると、まず「可哀想だね」と言われ、次に「大変だね」などと声をかけられる事が多いのですが、こうやって周りの人たちが助けてくれるので自分では大変とも可哀想とも思った事がありませんでした(笑)

 

日本では一人親世帯の割合は10%ほどと言われます。シングル子育ての9割程がシングルマザーなので、子育てをしている家族の10家族に1家族が母子家庭、つまりシングルマザーの家庭って決して珍しいことではないのです。ですからそろそろシングルマザーも市民権を得てもよさそうですが、実際は「可哀そう」とか「大変そう」といった先入観の方が先行しています。わたしは未婚の母でさらに少数派なので、まず驚かれたりかれたり、複雑そうに感じられるのか「(子供が)可哀そう」とよく言われましたが「何が可哀そうなのだろう?」と思っていました。収入面で不安定になるリスクが高い現実は確かにありますが、みんながみんなそうではないです。私の場合も会社をしていたので経済的な不安はありませんでした。「パパがいなくて可哀そう」という人もいましたが、愛情は親戚や友達や近所の人たち、父親以外のたくさんの人たちからも注がれます。現に色々な人に預けてきたおかげか、娘は人に慣れていてどこに行っても自分が楽しめる状況を作りだすのが得意です。

 

シングルマザーに限らず、LGBTの人たちや宗教的なマイノリティーの人たちに対して根拠のない先入観があまりにも多いことが気になります。せめてわたしはハッピーなシングルマザーでいて、わたしの例を必要な人たちに知ってもらうことで「シングルマザー」=(イコール)「可哀そう」ではないことなどを伝えられたらと思います。そもそもシングルファーザーだと「えらいね」「すごいね」などと言われるのに、どうしてシングルマザーになると悲壮感を持った目で見られるかも不思議でなりません(笑)

また、「(あなたは)可哀そう」と聞いた子供たちが「自分は可哀そうな子なのか」と思

い込んでしまったら、それこそとても悲しいことです。

 

多様な考え方や生き方をする例が身近にあることで社会的マイノリティーへの理解につながっていくと思っています。わたしはハッピーなシングルマザーの代表でいたいです。 

 

・学校のボランティア活動を通して

 

娘の小学校では「読み聞かせ」のボランティアをしています。お話会で学校に行き始めると「本を読んでくれる人だ!」と認識してもらえるようになってすごく嬉しいですし、子供たちのエネルギーに癒されています。そして、読書の楽しみを共有しながら子供達の健やかな成長を見守ることができるのは、何ものにもかえがたい喜びです。

 

学校の40周年をお祝いして「落語会」も開催しました。大好きな落語家さんに連絡を取り日程を調節し、チラシの作成や配布、会場の飾りつけからご案内や進行など、何からなにまで、しかも予算が本当に少ないなかでどうしようかなぁ、という問題も山積みでしたが、子どもたちも先生方も大人たちもみんなが大笑いして喜んでくれて大成功。PTA活動の他に、こういった活動のおかげで仲間ができましたし、難題を次々と解決していくママたちのポテンシャルにも驚かされました。

 

なにか言ってくる人を「文句」と取ると揉め事につながりますが、「文句」ではなく「改善のための提案をしてくれている」と認識するだけで場が上手くいくことも、会社経営の中で経験できた一つです。日本ではディベートの文化がないので違う意見を言う人がいると非難や愚痴のように取られがちですが、受け取り方や言い方を変えるだけでその人のポテンシャルをさらに引き出すことができるなど、そういった会社経営で見につけたスキルがこのようなところでも活きました。

 

・子育てで大切にしていることは?

 

わたしがいなくなったときに娘が自立できることを第一に心がけています。

また、娘にはやりたいことをやらせるようにしています。もちろん時間には限りがあるので、有限の時間のなかで選ぶ大切さも伝えながら。そしてそれを考える手助けはしています。

 

娘は現在、タップダンスやスキー、お城廻り、石集めなどが好きで没頭していますが、そういったジャンルは実はわたしの得意分野ではありません。でも娘がスキーにはまったおかげで、わたしも18年ぶりにスキーを再開しましたし、娘の楽しい解説のおかげでお城に詳しくなってきました。娘の好奇心や興味をわたしも楽しんでサポートし続けたいなぁ、と思いますし、大人になってからでも学ぶのが楽しいことを娘に再認識させてもらいました。

 

人間関係全てでそう言えると思いますが、人に求めるとストレスになります。ですから子育てでも「求めない」「期待を押しつけない」ようにしています。娘にはわたしだけではなくて、多くの人と接する機会を持つようにとも心掛けています。社会は集団生活なのでルールがあり、それは守らなければいけないけれど、違うルールが常識とされている場所もあります。「イヤなら別のどこかへ行ってもいい」と思いますし、「こうでなければならない」は、実はあまりないといった多様性を尊重する考え方を伝えたいです。

 

・ストレス発散法やご自身の幸せのために心がけていることはありますか?

 

読書・音楽・映画・落語など手軽に楽しめる好きな事が多いので、いつも気が付くとだいたい幸せです。毎日のことでいうと軽くストレッチをしたり、「毎日笑って生きていよう!」と思い笑っていると楽しくなります。自分でも驚くほどの単純さです(笑)

 

また、感情を伝えるようにも心掛けていますし、思ったことは極力誤解のないように伝える、そして、よく動いているのでストレスってそもそも貯まらないのです。

ただ、苦手なことはしないようになったというか、例えば人が多いところには行かなくなりましたし、変なことに巻き込んでくる人がいたら距離を置く、近寄らないといった防衛策は経験から身につけたと思います。

さらに、どうしようかなぁ、困ったなあというときなどに「まぁ、いいか!」と思える思考も助かっているかもしれません。なんとかなるし、というか、なんとかしかなりませんし。人を責めない「雑さ」みたいなものがお気に入りで大切にしています(笑)

 


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota 

ライター&プロジェクトプロデューサー 

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。 

現在イギリス・カンタベリー在住。 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。 

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。 

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/ 

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/