イギリス発、十人十色の働き方
ボッティング大田 朋子(Tomoko Botting-Ota)
本コラムでは、働く女性にインタビューしてお仕事のこと、ライフワークバランスのとりかた、リラックス法、時短の工夫といったお話をうかがいます。
第11回目は東京から熊本県に移住された増田佳代子さん(仮名)さんに登場して頂きます。大学で秘書として働きながら息子さんを育てておられた佳代子さんが、お子さんを連れて熊本へ移住されるまでの過程や新天地での生活、現在のお仕事のことを伺いました。
・ご出身が東京で東京にお住まいだったのが、2年ほど前に熊本に移住されたとお聞きしました。移住にいたるまでを教えて下さい。
わたしは子どものときに何度か引越しを経験し、いくつかの場所に住みましたが、主に東京で育ちました。高校時代と20代にはアメリカにも住んでいました。アメリカから帰国してからはまた東京で働いていたので基本「都下っ子」でした。
移住のきっかけの一つは、東京での子育てに疑問を感じていたことでした。東電の福島第一原子力発電所の事故以来、放射能のことも常に不安でしたし、東京では子どもを育てづらいなと。漠然と移住を考えていたとき、これも漠然としていたのですが九州がいいかなあと思っていて、熊本に遊びに行ったんです。結果、その時の宿のオーナーとの出会いが縁で、それから熊本によく行くようになりました。1年半の間に2か月ごとくらいで熊本に行きました。その間に少しずつ移住の計画に現実性が帯びてきました。
とはいえ、私は自分が子どもの時に何度も転校を経験していて、それは苦い経験でした。転校するたびに仲良かったお友達と別れて新しい環境でまたやり直すのが、子どもながらにストレスでした。だから自分の都合だけで息子を転校させたくないと移住には踏み出せずにいました。しかも息子は自由な校風が気に行った私立の学校に通っておりとても楽しそうに毎日登校していたので、環境を変えたくありませんでした。
転機になったのは、春休み中、3泊4日間息子がした熊本でのホームステイ。学校のお休みの時に熊本の大自然に触れさせたいと息子をホームステイに送り出したのですが、それから戻ってから、息子の様子が変わりました。東京での生活や学校を今までのようには楽しめなくなっていたようでした。「東京は疲れる」と言うようにもなってきて。その後にゴールデンウィークを利用して二人で熊本に1週間だけ遊びに行ったのですが、子どもが「もっとここにいたい」と言いだして、結果的に、本当にそのままいることになって移住に至ります。
というわけ漠然と移住したいと考えていたこととはいえ、急に話が進みました。もっとここにいたいと切望する息子を知り合いに人たちに預けてわたしは一度東京に戻り、転校手続き、転職、引っ越しとやることをやって、衣服だけを持って熊本に移住してきました。
・お仕事はどうされたのですか?
熊本に通うようになって以来お世話になっている方からの紹介で、中古車販売の会社に勤めています。ご縁があってお仕事があったことは移住の後押しになりました。
また、FXなどの資産運用や新規事業立ち上げ&運営をしています。田舎に移住したから自然に囲まれてのんびりと子育てを楽しんでいるんでしょう、なんて思われがちなのですが、仕事面でいうと東京にいた時より本気で頑張っています。
特に、中古車の販売はわたしには全く未知の業界でしたが、とても興味深いです。以前は、車は安全に乗れればいいと思っていただけでしたが、仕事として携わるようになって車に対する眼が激変したというか。車って一流技術者の最高技術の塊、エアコン、電気もあり、言うならば動く家なんですよね。そしてメーカー、車種によって特長も強みもぜんぜん違う。奥が深いです。田舎で暮らし始めてわかったのですが、郊外生活では車って生活必需品なんですよね。その生活のパートナー的な存在をお客様に提供できるって素晴らしいなぁと感じています。
・移住してきいてどうですか?
子どもにもわたしにとっても、本当によかったです!
熊本は食べ物が新鮮で安くて美味しいし水は豊かだし(今は井戸水なので水道代がかかりません!)温泉が豊富であって古墳群があって……、と挙げればきりがないほど生きていく豊かさがあります。
そんな大自然のなかで、わたしは「食べる、生きる」を学ばせてもらっている気持ちです。例えばですが、熊本に来て初めて自分たちで栗を拾ってきて渋皮煮作りをしました。他にも柿をとってきて干し柿を作ったり、泥らっきょうを洗って薄皮を向きお漬物にしたり、と食べ物だけじゃないですが、こっちの人って生活に密着しているものを自分の手で作るんですよね。わたしも移住してきて自家発電装置を作りましたし、寺小屋を作ったときも(後述)自分で木材を調達して古民家を改築したんですが、都会にいると与えられたものを使いこなしていただけで、こういうのって自分ではやらなかったです。食べるものにしても生活していくのに必要なことを自分の手で作りだしていく「強さ」みたいなものを学んでいます。熊本では地に足がついた生活がある、といいますか、それが私には新鮮だし学びの連続です。
村での活動でごみ当番や神社そうじの当番があるのですが、助け合いが普通に行われていて地域の人たちのあたたかさもありがたいです。たけのことかお野菜とか栗、イノシシ肉などお裾分けしていただくことも多いのですが、人のつながりが本当にありがたいです。
それにわたしがいるところは熊本でもすごく田舎なんですが、意外にも世界で活躍している刺激がある人との出会いが多くて。質のいい出会いやつながりに恵まれています。
息子も友達ができて毎日楽しそうです。東京にいたときには私立の学校に通わせていて、校風が自由で制服も教科書もないような環境だったので、引っ越してきたときも学校選びに迷ったのですが、結局3校が合併して一つになったような田舎の学校を選びました。学校見学に行ったときに子どもたちの好奇心にあふれた目の輝きがすごくて!擦れていないというか素朴で素直なんですよね。息子もすぐに打ち解けて、近所の子どもたちと毎日思いっきり遊んでいます。
・移住されてまだ2年と経たないなか、最近子どもたちが集まる空間として「寺小屋」をオープンされたんですよね。
事務所の横に古い民家があったので改築して、子どもたちのためのサードスペース「K's Camp」を作りました。ここから未来を創り出す人材がうまれたら最高に嬉しいと思って。
古い民家を改築して、と一言でいっても民家は雨漏りはするし底は抜けているしとかなり状態が悪かったのを、フローリングの板張りからスタートして、床貼り、ペンキぬり、畳張替え、照明取り付けといった改築作業をコツコツ、仕事の合間にやってようやく改築にいたりました。本格的にオープンを意識して動き出してから1ヶ月くらいかかったかな?
初日は息子の友達たちが来てくれて、宿題タイムの後にみんなで焼きそばを食べてピニャータ遊びをしましたが、盛り上がりましたねえ。子どもの居場所になれれば本望です。お食事会や上映会をしましたが、これから英会話をしたりして子どもたちに新しい経験を与える場所にしたいです。
・どうして寺小屋を作られたのですか?
うちの子どもは一人っ子で兄弟がいない分子どもを社会のなかで育てたい思いが人より強くあります。プチ家族のようなつながりを作ってあげたいというか。それに私自身が自分の時間を持ちたいと思うタイプなので、他の親にも子どもを預けられる環境を作りたかったのもあります。一人でがんばって子育てしなきゃ、とかではなく、子どもを安心して預けられる場所があって社会みんなで子育てをすればいいなあって。
・田舎暮らしで何が一番変わりましたか。
毎日の生活でされていることやリラックス法などがあれば教えて下さい。
熊本に来たからというのではないのですが、どこにいても毎日していることってありますよね。そういったなかで良い習慣を「毎日のルーティンワーク」として死守しています。朝は掃除をしてヨガをして水浴びをして、コーヒーを挽いて入れて…というようなシンプルなことですが、繰り返し行うことで自分がかつてもっていた無用な心配に支配されなくなりました。第3木曜日にこの店に食べに行くといった月ごとのルーティンも決めています。今は習慣の繰り返しのなかでルーティンの精度を上げられるように努めています。
わたしが住む熊本県のあたりは古墳が多いので週3回、古墳群に散歩に行きます。太古からある土地から受けるエネルギーは半端でないです。それにここは温泉がたくさんあるのですが、道無き道を歩いて行ったら源泉を発見したこともあって発見の連続です。草原内で迷子になりそうながらも山登りを続けると絶景が広がっていたときには、自然の偉大さを肌で感じましたね。
・今後の夢や目標はありますか?
熊本に来たのは、ただ田舎暮らしをしたいとか、自然のなかで子育てしたいということだけはありません。熊本で生きていくことを通して生きる力を身に着けている心構えでいます。先ほどのルーティンの話につながりますが、今は自分のやるべきことに集中して、その過程の結果、もっと経済力や生きる力がついたとき、息子の青年期の舞台を海外に持っていけたらと思っています。
【佳代子さんが働く中古自動車販売店のサイト】
ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota
ライター&プロジェクトプロデューサー
アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。
現在イギリス・カンタベリー在住。
メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。
アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。
⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/