イギリス発、十人十色の働き方
ボッティング大田 朋子(Tomoko Botting-Ota)
本コラムでは、働く女性にインタビューして仕事・起業のこと、ライフワークバランスのとりかた、リラックス法、時短の工夫といったお話をうかがいます。
第5回目は、欧州各国への販売を視野に入れて、スペインでチューハイの製造、販売をしている 林幸江さんに登場して頂きます。
・現在されているお仕事のことを教えて下さい。
スペインでサムライチューハイの製造と販売をしています。サムライチューハイというのは弊社オリジナルのチューハイブランドです。
・スペインで起業されたんですね。どうしてチューハイの会社を起こされたのですか?
チューハイが大好きなんです!
でも、スペインに移住した10年以上前にはスペインではチューハイが全然なかったんです。ないなら自分で作ろうと思ったのがきっかけです。
・チューハイ好きが高じてチューハイを製造して販売する会社まで作ってしまったんですね!チューハイを作って販売するまでの過程は?
10年以上前になるんですが、日本で結婚式があったとき、スペイン人の旦那や親せきが日本に来たんです。スペイン人の旦那や親せきも私と同じようにチューハイを喜んで飲んでいるのを見て、スペインでもイケるかもと思ったのがそもそものきっかけです。
それからもスペイン人の友達やママ友に試してもらう機会が何度もあったのですが、チューハイのさっぱり感がスペイン人にも好意的に受け入れられているのを見て、「スペイン人にチューハイ、イケる!」と確信しました。とはいえ、その時はチューハイを作ったら自分も飲めるしビジネスもできるし……くらいの軽い気持ちだったんです。
そうこうしているうちに長女と長男が生まれて子育てが中心の毎日がしばらく続いていたのですが、子どもたちがそれぞれ小学3年生と1年生になった頃に、子育ても一段落してきたし、今まで温めていたチューハイビジネスに本格的にノリだそうと決めました。
・スペインにチューハイのような飲料はないのですか?
スペインにはワインやカバといった飲み物があります。ここ数年はジントニックもブームだし、サングリアもあります。でも、チューハイのような「さっぱりするアルコール飲料」はないんです。
スペインの若者はコカコーラやファンタにウイスキーをまぜたりして飲んでいますが、「彼らにもチューハイはウケる!」って思いました。
・チューハイで起業しようと思われて一番始めにしたことは何ですか?
まずチューハイを製造してくれる委託会社を探しました。自分が好きなチューハイの味を生み出せることと、スペインに輸出してくれることが条件でした。紆余曲折があったのですが、その後運よく私の望みどおりのチューハイの味を生み出してくれてかつスペインに輸出してくれる日本の会社と出会いました。
・思うようなチューハイができた!その後は販売ですよね?
商品ができたら、倉庫を探したり市や衛生局との許可をもらったりといったオフィシャルな手続きが山積みでした。それに販売先も見つけなければなりません。売り先は起業する前からバルセロナやマドリードの日本食関係の飲食店をまわっていて少なからずアテがあったので、知り合いのオーナーさんたちに紹介することから始めました。バルセロナ、マドリード、バレンシアというスペイン三大都市にありかつ自分自身も好きな日本食レストランをまわって紹介しました。そこから、別の飲食店経営者さんを紹介してもらったり、オーナーさんのなかにはバルセロナでの日本夏祭りの主催者の方もいたので、つなげていただいて夏祭りにも出品するなど、比較的順風満帆に販売先が確保できました。とはいえ、起業をしようと本格的に動き出してから、2017年6月のサムライチューハイ発売まで、2年間くらいかかりましたし、その間はがむしゃらに働きましたよ。
・お子さんがおられるし家事もあると思うのですが、仕事と家庭、育児との両立をどの様にされていますか?
食事はまとめて買って、多めに作って、という風に買い出しも調理もまとめてします。多めに作って残りを冷凍しておく戦法です!とんかつも唐揚げも大量に作って冷凍しておきます。それと仕事が大変なときはがんばって食事を作ろうとしないようになりました。例えば、ピザが多い週があったら前までは「栄養上よくないなあ……」なんて罪悪感があったのですが、今は気にしなくなりました。がんばって作ろうとか手抜きだとか思わないようにしました。これって大切なことですよね。
掃除はクリーナーさんに来てもらってアウトソーシングしています。
実はわたしサムライチューハイを販売し始めて1年近く経ったころ、体調がおかしくなったんです。不安で眠れなくなって落ち着いていられなくなってしまったり、焦燥感がいつも取りまとわりついて息がしづらくなったり、じんましんも出たりして……。お医者さんに診てもらうと「うつ病」でした。ひたすら休みなしで働いていましたし、売り出したからにはすぐに結果が出ないことに焦って在庫を見るのが辛いほどで、心のバランスを失っていたんですね。契約がとれても喜ぶ気持ちが沸いてこなくて、それくらい当たり前なんだからもっと売らなきゃって、自分を褒めることなくひたすら突き進んでいたんです。
・働く女性のうつ病は年々増えているし、男性よりも女性の方がうつ病にかかりやすいというデータも出ています。林さんはどのようにうつ病を克服されたのですか?
それまでは「自分ですると決めたことなのだから休まずにがんばって当たり前」くらいに思っていたんです。それまでの人生では目標を立てたら比較的すぐに達成できてきたので、同じような結果をサムライチューハイの販売にも求めていました。
心と体のバランスを崩して、お医者さんから「うつ病」と診断されてからは、処方箋を飲みだしたおかげで夜眠れるようになりました。段々と落ち着いて物事のよい面も見られるようになってきていた頃、薬を飲みだして10ヶ月後くらいだと思うんですが、本も読めるくらいまで体調が回復してきたとき友人が「自愛メソッド」という本を貸してくれたんです。その本を読んでメンタルも体調も飛躍的にアップした気がします。
・ママの体調が悪くなってお子さんたちも心配されたでしょうね……。
子どもたちにも「ママ病気だから」と言っていたので、私が急に泣きだしたりしても抱きしめてくれましたよ。子どもたちにもですが、周囲に人にわたしは今うつ病だから、と素直に打ち明けたのがよかったと思います。
うつ病を経験したことで子どもに対しての反応も変わりました。やるべきことさえ終わったらゲームであろうが自分のしたいことをしたらいい、と思えるようになりました。小さいことにイライラしなくなったというか。
人生成るようになりますしね。子どもが自分からやりたいって思ったら自ら切り開いていくだろうから、先回りして無理させなくなりました。それまでは、子どもがやるように仕向けたり、やる気を出させるように気配りしたりして色々なことにチャレンジさせていたのですが促してやらせるのもやめました。親も子も疲れていたら楽しめない。きちんとしなくてもいい、危険なことだけ回避したらいい、くらいに思っています。
・サムライチューハイの会社はその後どうですか?
はじめは、缶チューハイとして売り出していたのですが、レストランに卸すときにビンの方が高級感があるとのことでその後容器を「瓶」に変えました。それに伴って、それまでは日本で製造して輸入していたのをスペインで製造することに切り替えることに。スペインでシドラやトニックを作っている会社があるのですが、そこに依頼してスペインでサムライチューハイを作り始めました。とはいえ、始めはレシピ通りに作っているはずなのに全く違う味でできあがって絶望しましたよ。所変われば水も変わるので日本で製造していたときのチューハイのレシピではできあがりが違うものになってしまうんですね。
何度も作り直してもらって望みどおりに一番近い味かな、と思ったものを瓶につめたら飲み味が最高で「やっと缶チューハイより美味しいサッパリとしたドライな味を再現できた!」と仕上がりに満足しました。瓶にしてから営業もしやすくなりましたし、人やご縁に恵まれおかげで販売も順調です。今はスペインの高級デパートエルコルテイングレスの棚にもサムライチューハイが並んでいますし、先日は数々の銘品が並ぶグルメマガジンにも掲載され、バルセロナで開催される日本の夏祭り“Matsuri Japan”では2日間で、約1200本も売れました。
@総領事公邸での天皇誕生日祝賀会でサムライチューハイをプロモーションされた時の様子
・お忙しい毎日だと思うのですが健康維持のために何かされていますか?
週1回ずつ、ボディーコンバットのクラスに行って、ウォーキングマシンで30~40分走っています。やらないとダメと強制的なプレッシャーに取りつかれないように、ジムでの運動も週にこの2回だけって決めています!
・異国で起業されて、その間うつ病を経験された林さんだからこその気づきがあれば教えていただきたいです。
仕事も子育ても、結局は「自分のため」なのだから、苦しくなったら意味がないですよね。上を見過ぎて自分で自分を追い込まない、というのが大切。
あと、わたし運だけは強いんです。この間も「サムライチューハイのビデオを作りたいから」って連絡があって怪しいなあと思いながらも商品を郵送したらすごく素敵なプロモーションビデオを作って送ってくれたんです。運だけが本当に良くて。運がいいと思うことで本当にますます運が強くなっている気もします。
【林幸江さんが製造・販売されているサムライシューハイのサイト】
https://www.facebook.com/samuraichuhi/
ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota
ライター&プロジェクトプロデューサー
アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。
現在イギリス・カンタベリー在住。
メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。
アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。
⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/