イギリス発、十人十色の働き方

ボッティング大田 朋子(Tomoko Botting-Ota

本コラムでは、働く女性にインタビューして仕事・起業のこと、ライフワークバランスのとりかた、リラックス法、時短の工夫といったお話をうかがいます。

 

第1回目は、11年前に中国から英国へ移住しヨガインストラクターとして働いているカスさんに登場していただきます。カスさんは北京大学でコンピューターサイエンスを勉強し、データベース管理会社やアートギャラリーなど多才な才能を活かして働かれていました。その後ご主人とイギリスに移住、妊娠出産を経て自身のために始めたヨガがライフワークになっています。

 @Cass & the Laughing Buddha

 

もともとは中国にお住まいだったんですよね。旦那さんとも中国で出会われたと。どうして英国に移住することになったのですか?

主人は楽器の部品を製造・修理する会社を経営しているのですが、ドイツで開催された楽器市に参加するため渡西したとき“ついで”に英国に寄ったことがきっかけです。英国は主人の出身地ですが、わたしたちは出会いも結婚も中国だったので、わたしはそれまで英国に来たことがなかったんです。だから「観光を楽しもう」くらいの気持ちでした。

 

でも、当時ロンドンに住んでいた旦那の友達が「自分が不在の間フラットを使っていいよ」と声をかけてくれたので、数か月滞在することになったんです。しばらくイギリスで生活していたら、旦那もわたしも二人とも将来はこっちに住みたいと思うようになって…。

 

ドーバー海峡に面するところにサンゲートという港町があるんですが、そこに住む友人を訪ねたときに旦那が突然そこの賃貸物件を見つけてきて(笑)……、結局そのままイギリスに住むことになりました。


イギリスに移住してからキャリアチェンジしてヨガのインストラクターになられたんですよね?そのことを教えてください。

2008年本格的に英国に住み始めてすぐに長男を妊娠しました。中国にいたときからヨガは習っていたのですが、イギリスに引っ越すことになって妊娠出産と忙しい時間を過ごしているときはヨガをする時間さえなくて…。当時のわたしは英語もあまり話せなかったし、異国での慣れない生活に初めての子育て、サンゲートは小さい村なのですぐ友達ができるわけでもなく…。その後カンタベリーという中都市に引っ越して今にいたるのですが、とにかくその頃は変化ばかりで色々としんどかった時期でした。

 

そんなとき、本当の自分を取り戻したいというか「自分の体と心をきちんといたわってあげなきゃ!」と思ってヨガを再開したんです。ヨガをすることで自分の状態が回復するのを感じ、もっと知りたい、もっと勉強したいとの思いを強めて、全米ヨガアライアンスの養成スクールで200時間の研修を受講するためにロンドンに通い始めました。その時は研修が終わった後にヨガ関係で仕事をしたいという明確な気持ちはなくて、自分の心と体を助けてくれたヨガをもっと知りたい気持ちに応えていただけでした。


自分のヨガインストラクターに師事しながらスクールで勉強をしているうちに、自分を助けてくれたヨガを他の人にも伝えたいなあと思うようになって…。そのうち本格的にインストラクターを目指し始めました。

 

ヨガのインストラクターとして収入を得るまでの経過は?

研修が終わってからはアシスタントとしてヨガやメディテーションのワークショップやフェスティバルに参加して少しずつ経験を積んでいたのですが、その矢先ヨガの先生から「ガンビアに旅行に行くからその間クラスを代行してくれないか」と打診されました。

 

当初は先生が不在の3か月だけ代行する予定だったのですが、先生が滞在期間を6か月、9か月と徐々に伸ばして、挙句の果てに「リタイアするわ」と言いだしたので(笑)、わたしがそのまますべてのクラスを引き継ぐことになったんです。思わぬ幸運からヨガインストラクターとしてデビューすることになりました。

とはいえ、ベテランの先生の後を継いだので、しかも生徒さんの中にはわたしなんかよりもヨガ歴が長い人ばかりだったしプレッシャーもものすごかったですよ。でも恰好つけないで、今のわたしができることを誠実にお伝えする、教室にいる生徒さんの体調や心のコンディションに丁寧に向き合うことを大切に取り組んでいたらみなさんついてきてくれました。

 

そこから人のご縁がつながって他のヨガスタジオに呼んでもらうようになったり、セラピーセンターでハイドロセラピー(水治療法)の教室を任されるなどして仕事の幅が広がってきました。引き続き500時間の研修を受けたり、色々なクラスに通うなどしてスキルや技術を向上しながら、今にいたります。

家事や育児との両立はどのようにされていますか?

週日のクラスは夕方5時から夜9時まであります。午後3時くらいに軽く食べて準備して出かけるので、子どもの迎えや夕食などは夫の担当です。夫も自営業で時間の都合がつきやすいおかげで、わたしも仕事と家事の両立がしやすいです。子どもたちは今まだ小学生、日曜日の朝と夜にもクラスがあるので、夫との協力なしに今の仕事と家事、子育ての両立はできません。もっとクラスをしてほしいと打診されるときもありますが、そうなると子どもといる時間が少なくなってしまうので、今はこのペースが適しています。

お仕事をするうえで心がけていることがあれば教えて下さい。

 

わたしが今住んでいるカンタベリーに引っ越してきたとき、色々な種類のヨガをもっと学びたい、深めたいと切望していましたが、学べるヨガのスタイルが限られていました。結局ロンドンまで行って学んだのですが、当時の自分が求めていたものを今はインストラクターとしてこの地域の人に伝えたい気持ちが大きいです。だからこそ、眠りのヨガといわれる「ヨガ・ニドラ」からエクササイズ的なピラテスまで、年齢や経験、多様なニーズに合わせて取り入れてもらえるように色々なヨガのスタイルを紹介するようにしています。

 

それに幸せを感じるには他者とのつながりも欠かせませんよね。そこでブッククラブ(指定の本を読んでディスカッションするグループ)とメディテーションを兼ねた「ヨガブッククラブ」も始めました。日曜日の朝には屋外ヨガを無料で開放しています。多くの人にヨガを取り入れてほしいという思いからです。ヨギーとしての自分があったらいいな、と思えるサービスを提供できるように心掛けています。

 

ライフワークバランスをとるために実践していることがあれば教えて下さい。ヨガの先生だけに健康面への意識も強いですよね。

自分の子どもたちにも言うのですが、人間ですからいい日もあれば悪い日もある。気分がのらないことを「ありのままに受けいれる」のが大切だって。気分がのらない時や疲れている時はその状態を否定せずに、それはそれでいいんだって受け入れる意識を大切にしています。

それに、クラスとは関係なく自分のためにヨガ・ニドラや簡単なヨガを続けています。1日4本クラスが続いたあとでも家でヨガをしているので夫には驚かれるんですが、自分の状態が健全であることはヨガインストラクターとしても、ママとして疲れないためにも必須ですからね。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

カスさんからお話をうかがっているとご自身がヨガによって「助けられた」からこそ、他の人にも広めたいという意識を強く感じました。ご主人との二人三脚で無理なくお仕事と家事育児を両立されている姿もとても自然で素敵でした。

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【カスさんのヨガクラスサイト】
Cass Xuxin Yoga 舍得瑜珈 https://www.facebook.com/CassXuxinYoga/


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/