コロナ過のイギリス2月レポート

ワクチン接種ひとまず「偉業」達成その理由と今後の課題

                                                ボッティング大田 朋子

 

2月中のイギリスといえば、1月から導入されている3度目のロックダウンが出口も見えないまま続いていて疲労ムード一色だった。学校も基本的に閉鎖中で子どもたちにとってはまたオンライン授業の日々だし、仕事を持つ保護者は仕事とホームスクーリングの板挟みでストレスはマックス、単身者も「メンタルヘルス」という一言では片付けられない孤独ややりきれなさと闘いながらの日々だった。

 

そんななかでイギリスに住むわたしたちの唯一の希望となっていたのが「ワクチン」だった。世界に先駆けて12月9日から「ワクチンプログラム」がスタートして以来、素早く接種が進められていきすでに国内のワクチン接種者数は1700万人を超えた。(2月26日時点)

 

・人口の25%がワクチンに懐疑的なイギリス

コロナ対策に関しては常に決断が遅く常に後手の政策をしてきたイギリス政府だが、ワクチンプログラムに関してはその迅速な対応が高く評価されている。実際わたしも顔見知りの医療関係者や70代以上の知り合いなどがスピーディーにワクチンを接種してきた現状を目の当たりにし、ワクチンに希望を見出すようになった。

 

それにしても人口の25%がワクチンに懐疑的といわれるイギリスで、首相が「偉業」と評するほどワクチン接種が迅速に進んでいる要因はいったい何だろうか?

 

・ワクチンプログラムが迅速に実現された理由

イギリスでワクチンプログラムが素早く実現されている要因の一つとして、国内で薬やワクチンなどを承認する医療規制機関(Medical healthcare regulatory agency)が早期にワクチン承認したことが挙げられると思う。他のヨーロッパ諸国に先駆けて12月2日にはファイザーワクチンを承認したが、この早期決断によって100万個のワクチンを確保するのに遅れをとらなかったと言われている。

 

早期承認と同時に契約も早くから進めていた。ファイザーのワクチンに関しては昨年夏には注文、契約をしていたし、オックスフォードとアストラゼネカ製ワクチンについても、承認から注文、生産、流通と何もかも行動が早かった。

 

迅速な判断の裏にはブレキジット後だったことが幸いした印象がある。EUの他27諸国と足並みをそろえる必要がなかったおかげでスピーディー承認につながった感は否めない。反ブレキジットだった人たちも、ワクチンに関しては官僚主義のEUと合わせていたらここまで迅速には進めなかったと感じている。

 

 

・予約が簡単、10マイル以内で接種可能

イギリスでのワクチン接種だが、自分の順番がきたらまず手紙が届き、その手紙に記載されている電話かサイトで日時を予約すれば後は当日会場に行き問診を受けて問題がなければ接種という流れだ。ワクチン接種会場へ脚を運ぶ前に前もってかかりつけの医者へ行き承認書をもらうといった手続きがないことも、スムーズにワクチン接種が進んでいる理由の一つに挙げられる。加えてジョンソン首相が「すべての人に10マイル(16キロメートル)以内でワクチンが接種できるように!」と宣言した通り、臨時のワクチンセンターを各地に設置するのに加えて薬局や大手スーパーといった人々に身近な場所を接種会場にすることで多くの人にとって困難なく接種できる環境を整備している。

 

・反ワクチンの動き

前述したとおりイギリスでは一般的に人口の4分の1がワクチンに懐疑的といわれる。今回も当然反ワクチンの動きもあった。特にコロナワクチンは早期に開発、承認されたので、プロセスに手抜きがあったのではないかと安全性を不安視する見方が当初は強かった。

 

それに対応し、大多数の人の「理解していないからなんとなく不安」といった声に応えて科学的な説明をわかりやすくメディアやSNSを通して行ったり、エリザベス女王などの名のある人たちがワクチン接種を公表するなどして、根拠のないワクチン懐疑論に対抗している。テレビで影響あるパーソナリティーたちも「自分の順番がきたらワクチンを接種をする、可能であればテレビの前で接種する」と公言するなど、ワクチン普及の動きも強い。

 

わたしの周りの反応でいうと、「ワクチンのことはよくわからないが、今のパンデミックを収束させる唯一の方法はワクチンしかない気がする。それならば接種をしない理由はない」といった理由で受けに行っていた。

 

・気の緩みより疲労感

ワクチン接種が進んでいるからといってイギリスにいるわたしたちに安堵感や希望が広がっているかというと必ずしもそうではなく、何よりまだロックダウンが続行中なので「疲労感」の方が勝っている。

 

それにワクチンを打った後も接種後2~3週間は効果が出ないという話もあり、接種後もソーシャルディスタンスは保たれているし、特に高齢者はまだまだ気を緩められない状況が続いている。

 

先日2月22日にボリス首相からロックダウンの段階的緩和計画が発表されて今後の見通しが見えてきたことで、ようやく「希望」が見え始めている。

 

・イギリスワクチン接種の課題

イギリスのワクチン接種に関しての課題として、ワクチンの無駄をなくすことが不可欠だ。ロンドン郊外のワクチンセンターで働く友人に聞いた話だが、予約しているのに当日会場に来ない人が毎日数人はいるという。ワクチンを無駄にしないようにとワクチンセンターで働くスタッフがその友人などに急きょ連絡して接種を実施しているようだが、こうした意図的な無駄をなくすことが必須だ。これはイギリスの国民保険サービスが無料であるがゆえの落とし穴ともいえる。

 

・教師や郵便配達といったエッセンシャルワーカーのワクチン優先順位

また、ワクチン接種の優先順位に関して、教師やスーパーで働くスタッフ、郵便配達の人たちの優先度を上げてほしいと個人的には思っている。彼らのようなエッセンシャルワーカーが高齢者ほど優先されないのは高齢者の死亡率が圧倒的に高いからだが、学校の先生や郵便配達といった社会を動かしてくれている人たちの優先順位を挙げてほしいと思う。そういった主旨のキャンペーンもありわたしも署名したが、政府に強力にアピールできるほど署名が集まらなかった。どこに焦点を当てるかを見逃さずに今後もワクチンプログラムを円滑に進めていってほしいと願っている。

 

とはいえ、春はすぐそこ。3月8日には学校が再開され3月29日からは屋外スポーツが再開されたり二世帯と屋外で会うことができるようになる。少しずつだが「希望」が見え始めたことに今はほっとしている。

 


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

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